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横浜地方裁判所 昭和56年(ワ)2360号

原告

井戸道男

原告

中沢仲治

右原告ら訴訟代理人弁護士

福田徹

加藤晋介

被告

神奈川中央交通株式会社

右代表者代表取締役

青山茂

右訴訟代理人弁護士

淺岡省吾

主文

一  原告らの請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が原告井戸道男及び同中沢仲治に対し昭和五五年一一月二五日付でした各減給処分がいずれも無効であることを確認する。

2  被告は原告井戸道男に対し金三〇万五〇三〇円及び原告中沢仲治に対し金三〇万四四一六円並びにこれらに対する昭和五六年一〇月二三日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を各支払え。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

4  2につき仮執行の宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  被告は、主として自動車運送業、定期バス運送を中心に自動車運送等を主要な事業目的とする株式会社であり、資本金二一億円で肩書地に本社を置き、神奈川県内を中心に一三の営業所を有している。

2  原告井戸道男は、昭和四二年三月原告中沢は同四六年四月、被告に運転士として雇用され、いずれも戸塚営業所(横浜市戸塚区中田町二六六四番地所在)に所属してバス運転に従事しているものである。

3  被告は、原告らに以下に述べる行為があったとして、これが就業規則八条(会社諸規則の遵守)並びに乗務員及び誘導員服務心得二六条(装置、備品の整備義務)に違反し、従業員懲戒規程九条六号及び同条一〇号に該当することを理由に、昭和五五年一一月二五日付をもって、原告井戸に対し金五〇三〇円の、原告中沢に対し金四四一六円の各減給処分(以下「本件処分」という。)をなし、原告らの同年一二月分賃金の支払に際し右金額を控除した。

(一) 原告井戸の行為

被告の減給処分の辞令によれば、「原告井戸は、同年九月二五日一八時三〇分頃戸塚営業所車庫洗車場において降雨による車内の前面ガラス及び前ドアーガラスの曇りをとるため、前ドアーから洗車場の水道ホースを入れて前面ガラス左面に水をかけ、しぶきが整理券器、風防、運賃箱にかかったのでバケツに水を入れウエスをしぼらず風防を洗おうとして水を運賃箱の運賃投入口、両替投入口及び受皿から運賃箱内部に流入させた。その上この事実を乗務終了後運行管理者に報告せず、そのまま運賃箱の金庫を個人別収入金精算装置に挿入させ、その精算装置の機能障害を発生させた。この行為は、前面ガラス及び前ドアーガラスの曇りをふきとる際、直接水道ホースで水をかけることなくウエスでふきとるべきであり、またウエスで風防を洗う際もウエスをしぼって水滴が運賃箱に流入しないようにすべきであるのにその配慮が欠けており、その上運賃箱に水が流入したことを運行管理者に報告することを怠った。」というのである。

(二) 原告中沢の行為

前同様の辞令によれば、「原告中沢は、前同日一九時五〇分頃汲沢団地折返し場にて降雨のため曇った車内の前面ガラス及び前ドアーガラスをウエスでふいているとき、運賃箱の上に置いたバケツに肘を当ててバケツを倒し、その水を運賃箱の運賃投入口及び受皿から運賃箱内部へ流入させた。その上この事実を乗務終了後運行管理者に報告せず、そのまま運賃箱の金庫を個人別収入金精算装置に挿入させ、その精算装置の機能障害を発生させた。この行為は、前面ガラス及び前ドアーガラスの曇りをふきとる際、バケツが倒れてその水が運賃箱に流入しないようにすべきであるのにその配慮が欠けており、その上運賃箱に水が流入したことを運行管理者に報告することを怠った。」というのである。

4  しかしながら本件処分は次のとおり無効である。

(一) 懲戒理由たる事実の不存在

(1) 原告井戸は、前記懲戒処分辞令記載の日時、場所において搭乗車両を洗車中前部サイドミラーに水をかけた際水しぶきが前部乗車口より車内に飛散し運賃箱等にかかったため、水をしみ込ませた布で運賃箱等にかかった水しぶきをぬぐいとったことはある。しかしながら、原告井戸は、被告主張の如き多量の水を運賃箱に流入させたことはなく、運賃箱の機能に障害を及ぼしたこともない。したがって被告に対する報告義務違反はない。

原告中沢は、前記辞令に記載の日時、場所において運賃箱の上に置いたバケツに過って肘を当てこれを倒したことはあったが、そのためバケツの水が運賃箱に流入したことはなく、運賃箱の機能には障害を与えていない。したがって原告中沢には被告主張の如き報告義務違反はない。

(2) 仮に被告主張の如く運賃箱内に水が入りそのため精算装置に故障が生じたとしても、前例のない事態であるから原告らにおいて予見し得なかったものであって、原告らに運賃箱内確認義務、報告義務はないものというべきである。

(3) 以上のとおり、原告らには懲戒理由たる事実そのものが存在せず、仮に右事実が存在するとしても報告義務はないから本件処分は無効である。

(二) 不当労働行為

本件処分は、右のとおり懲戒事由に該当する事実のないものであるが、被告がかかる処分を敢えて強行したのは、原告らの(1)の正当な組合活動に対し(2)に記した被告の対応よりみて明らかなようにこれを嫌悪したがための不利益取扱であって、本件処分は不当労働行為として無効である。すなわち、

(1) 昭和四二年一二月被告横浜営業所において、神奈川中央交通労働組合(以下「組合」という。)執行部の活動方針に批判的な運転士ら有志により「神奈川中央交通事故をなくす会」が結成され、同会は同五四年四月「神奈中職場に権利を確立する会」(以下「権立会」という。)と改称された。権立会は、組合執行部及びその支持者が被告に極端に追従協力し、職場における労働条件や労働者の権利の維持、向上に対する努力を怠っている事態を認識し、組合の民主化、労働条件の改善、職場の明朗化、労働者意識の強化、交通事故の防止を目標として運動してきたが、戸塚営業所においても、同五〇年四月頃から同会戸塚支部が組織され、原告らもこれに加ったが、原告らは同五二年一〇月以来、権立会の趣旨に基づき、組合の中央委員、分会委員選挙には組合執行部に対抗して立候補し激しい選挙戦を展開してきた。

(2) これに対し、被告は次のとおり対応した。すなわち、

(ア) 車両担当の差別

バスの運転乗務者にとって、乗務に当り配車される車両の新旧は、クラッチ、ブレーキペタルの作動、エンジンの振動、夏期におけるクーラーなど運転の難易、運転者の疲労度などの諸条件が新車ほど改善されているため、労働条件上で重大な関心の対象である。このため担当車両は年功序列により入社時期の古い者から順次新しい車両を担当することとし、もって人事の公平を期することが、バス、タクシーなどの業界で確定している労働慣行であり、被告においても何ら例外ではない。しかるに被告は、権立会の会員に対しては、その嫌がらせ、見せしめとして年功序列による配車をせず、他方、会社追従派とりわけ分会役員などになった者に対しては、年功を度外視し会社に対する奉仕の報奨として新車を担当させ、あからさまな配車差別をして権立会会員を不利益に取扱っている。

(イ) 臨時給の差別

被告は、原告ら従業員に対し夏、冬の二回一時金たる臨時給を支給するところ、この臨時給のうち賞与部分についてはAからEまで五ランクがあってCが平均とされているが、権立会員は、ほぼ全員がEランクとされ、原告らも権立会員であるために本件前後を通じ常にEと評価されてきた。

(ウ) 時間外労働に関する差別

原告らの昭和五五年当時における基本給は、原告井戸が第一基本給一七万一二三円、第二基本給一万八七七七円、勤続給一三〇〇円、家族給六二〇〇円合計一九万六四〇〇円であり、原告中沢が第一基本給一五万九六四二円、第二基本給一万七三五八円、勤続給九〇〇円、家族給六二〇〇円合計一八万四一〇〇円であることから明らかなように、被告における所定労働時間の賃金は低く、月六〇時間程度の時間外労働をしなければ通常の生活が営めない賃金実態となっている。このため被告の従業員は、一か月平均六〇ないし七〇時間、人によっては月一〇〇時間前後に達する程の時間外労働に従事している。しかるに原告ら権立会員については、時間外労働時間は殆どの場合四、五〇時間台に抑えられるという不利益取扱を受けている。

(エ) 原告井戸の年休をめぐる不利益取扱

原告井戸は、昭和五四年一二月四日一九時三〇分頃、会社に年休を申し込んだ。しかるに会社は、年休承認に関する従来の方式によれば認めるべきであるのに、にわかに制度の変更を口実として承認せず欠勤として賃金の減額をした。そこで原告井戸は、同五五年一月二一日所轄労働基準監督署にこの事実を申告したところ同監督署は右賃金の支払方を会社に命じ、会社は止むなく同年三月に至り同原告の年次有給休暇の行使を認めてカットした賃金を支払った。

(オ) 組合役員選挙への介入

会社は、昭和五八年一〇月に行われた組合役員選挙の際、会社追従派を支持し権立会所属の立候補者を落選さすべく、職制らをして権立会を「バイキン」と呼んで誹謗・中傷させ、更に権立会員に投票した者にはそれ相応の措置をとる旨の威迫的発言をした。さらに右選挙において権立会の会員である大川、大場、半田の三名が高橋営業所長(当時)に選挙用ポスターの貼り出しを届け出たところ、同所長は、既に会社追従派のポスターが貼ってあったテレビの右側に並列して貼付することを許さず、テレビの左側に貼るよう指示したが、これは単にテレビの左側が暗所で見えにくいというに止まらず、権立会の候補者と会社追従派の候補者のポスターを遠く離隔させて掲示することにより、投票者が投票所において投票用紙に候補者の氏名を記入する際いずれのポスターを注視しているかを明らかにせざるを得ないように仕向け、投票者がいずれの候補者を支持しているか投票態度が歴然とさせるようにし、権立会員たる候補者への投票行動を牽制した。

(三) 懲戒権の濫用

本件処分は懲戒権の濫用でありその効力を有しない。すなわち、

(1) 被告主張の如く、運賃箱等に水が浸入し精算装置に若干の支障が発生したとしても、それは悪意で行われたものではなく、しかもバスの運行の安全管理上直接に影響することはないのであるから、重大な結果を発生せしめる危険性もない性格のものである。しかも原告らが車両の洗車或いは車両の前面のガラスの曇り止めの措置を行う際に発生したもので、いずれもバスの運行上欠くべからざる作業に伴い発生し、かつそのような際に発生する可能性は十分あり得るものである。したがって、このような過失は軽微であって懲戒の対象としなければならない程の悪質なものではない。しかも、本件事件当日運賃箱等の機器は完全に稼働していたのであるから、異常を発見し運行管理者に対し報告を行うことを期待するのは困難である。

(2) 精算装置の故障は、戸塚営業所において頻発し慢性化していた。しかも精算装置にかけた後の金庫内に回数券、整理券が大量に滞留していても不問に付される事例があった。金庫内が濡れていることもあれば、本件事件翌日においてさえ金庫内に硬貨が貼り付いている事例もあった。しかして、これらについては懲戒処分はなされていない。

(3) 以上の事情よりすれば本件事故に対し減給処分をもって処断するのは著しく重きに失するものであって、本件処分は、その必要性の限度を越えた違法なものというほかない。

5  以上のとおり本件処分は無効であるから、原告らは被告に対し、それぞれ本件処分による減給額相当の未払賃金請求権を有する。

なお、賃金支払日は毎月二五日である。

6  使用者が労働者に対し懲戒処分を行うに当っては、懲戒事由の存否につき十分調査し、事案の軽重、事実経過等を慎重に検討し、妥当な処分を行うべき注意義務があるものというべきところ、被告は、この注意義務を怠り、或いは故意により懲戒処分をなすべき場合でないにもかかわらず本件処分に及んだ。原告らは、この被告の行為によりいずれもその名誉を侵害され、精神的苦痛を被ったから、被告はこれが損害を賠償すべき義務を負うべきところ、原告らの被った右精神的損害を慰藉するには各金三〇万円をもって相当とする。

7  よって、原告らは被告に対し、本件処分が無効であることの確認を求めるほか、原告井戸は未払賃金五〇三〇円、不法行為による損害金三〇万円合計三〇万五〇三〇円、原告中沢は未払賃金四四一六円、不法行為による損害金三〇万円合計三〇万四四一六円及びこれらに対する支払期限後である昭和五六年一〇月二三日以降完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求の原因に対する認否

1  請求原因1ないし3の事実は認める。

2  同4(一)は争う。

3  同4(二)は争う。但し、原告らが組合役員選挙に立候補したことがあること、原告井戸が会社に対し年次有給休暇の申出をしたこと、会社がこれを認めなかったのに原告井戸が休んだので欠勤扱とし、賃金をカットしたこと、原告井戸がこれについて労働基準監督署に申告をし、原告主張の日に是正勧告があり、会社が当日を年次有給休暇扱とし、賃金を支払ったことは認める。

4  同4(三)は争う。

5  同5及び6は争う。

三  被告の主張

1  被告は、本社を神奈川県平塚市に置き、資本金二一億円、従業員約三三五〇名で、乗合自動車、貸切自動車の自動車運送事業及び不動産業その他の事業を行っている。このうち乗合自動車業(定期バス)については、その事業区域は、神奈川県下全域を中心とし、運行系統数六〇二系統、免許粁数約一四四〇粁に及び神奈川県内に一二か所、東京都町田市に一か所の営業所を有し、営業所所属の従業員は約三〇〇〇名(うち乗務員約二五〇〇名)で保有車両は約一六〇〇両である。

2  被告における定期バスは、昭和三〇年代後半よりワンマン化されたが、このワンマンバスによる乗合自動車事業においては、その業務の性質上、乗務員は、上司の直接の指揮監督を離れて、乗客との金銭授受等の運賃収納業務を含むバス運行業務を行うものであるので、その就業については強度の信頼関係が基本となっており、乗務員が自らの責任においてこれらの業務を適正かつ誠実に行うことが雇用契約の本旨たる職務遂行義務、誠実義務の内容をなしている(就業規則八条一項、乗務員及び誘導員服務心得三条)。

3  被告における定期バス収入は全収入の九〇パーセントを占めており、その収入は専ら運賃収入によっているものであるから、乗合自動車事業の運賃収入は経営の基盤となっているものである。そこで被告においては乗務員による収納運賃についての不正事故防止並びに収納手続の適正、迅速化をはかるべく運賃収納を機械化しているのであるが、本件当時の被告の運賃収納システムは、大別して<1>循環式自動両替運賃箱、<2>金庫、<3>個人別収入金精算装置の三つの部分より成る機械的システムによって行われ、このうち<1>運賃箱はバスに取り付けられており、<3>精算装置は営業所内に据えつけられている一連の装置で、<2>の金庫は、小型の手提げ式のもので、乗務員が乗務するときバスの運賃箱にセットし、乗務が終るとこれを取り外して精算装置にかけるが、これにより金庫から精算装置内にあけられた運賃が選別収納されるという仕組みになっている。

4  このように運賃の機械的収納システムは、乗務員の手による収納システムに代るものであるから乗務員は運賃箱、金庫等の収納関係の装置、備品がいつでも正常に働くようこれを適正な状態に保持すべき業務上の責任を負っているものであり、特に金庫を精算装置にかけると解錠され蓋が開かれるので金庫を右装置から取り出し格納棚に置く際には、担当乗務員は金庫内の状況を確かめ異常があったときは係員に報告してその指示を受け処置しなければならないこととなっている(前掲服務心得二六条一号。ワンマンバス取扱要領)。被告においては服務心得や取扱要領等につき講習等を行って乗務員らに対しこれが趣旨の徹底を図っている。

5(一)  ところで昭和五五年九月二五日当時、戸塚営業所乗務員である原告井戸は一二〇号車、したがって一二〇号金庫の、同原告中沢は七三号車、したがって七三号金庫の各担当であった。

(二)  同日、戸塚営業所では、小川統治郎助役、会計担当の小菅芳治事務掛及び運行担当の石井義雄事務掛の三名が当直勤務(午前九時から翌日午前九時まで)をしていたところ、午後九時頃精算装置の警報器のブザーがなり、精算装置が停止した。そこで小菅事務掛が精算装置を調べたところ、その原因は、濡れた乗車券等の紙券と硬貨が装置内の選別機にべったりとくっつき詰まったためであることが判明した。すなわち、濡れたままの紙券と硬貨が装置に入れられたため清算装置の機能障害が発生したのである。

(三)  この機能障害が発生したときの精算者は原告中沢であったので、小菅事務掛と小川助役が金庫格納棚に置かれていた同原告の七三号金庫を点検したところ、金庫の内側に多数の乗車券と硬貨が濡れてべったりはりついたままであり、金庫自体もびっしょり濡れていた。

(四)  小菅事務掛らが精算装置の修復に当り、その復旧後待っていた三人の乗務員が順次精算を行ったが、同日午後九時一五分頃再び警報器がなり、精算装置が停止した。そこで小菅事務掛が直ちに調査するとその原因は全く前同様で、選別機に濡れた乗車券と硬貨がつまったためであることが判った。この時の精算者は修復後第四番目にした原告井戸であったので、小菅事務掛と小川助役が金庫格納庫棚の同原告の一二〇号金庫を点検すると、その状況は七三号金庫の場合と全く同様で金庫の内側に濡れた乗車券と硬貨がはりつき金庫自体もびっしょり濡れていた。

(五)  小川助役らは、右のとおり精算装置の機能障害を起すほど乗車券や硬貨が濡れていたこと及び原告らの金庫の状態から、原告らの担当車両の運賃箱にも異常があるのではないかと考え、同日、当直の木村勝次整備士とともに右運賃箱を点検したところ、両車両とも運賃箱の投入口、内部のベルト機構、券シュート、両替機構、シャッター機構、金庫セット部の空洞の内枠等内部機器が全部濡れており、さらに七三号車では、運賃箱の両替器受皿に水が二センチメートル位たまっていた。

(六)  なお本件事故直後原告らの金庫に遺留されていた硬貨は、七三号金庫については、一〇〇円硬貨八枚(八〇〇円)、五〇円硬貨一〇枚(五〇〇円)、一〇円硬貨三八枚(三八〇円)の合計五六枚(一六八〇円)、一二〇号金庫については、一〇〇円硬貨八枚(八〇〇円)、五〇円硬貨五枚(二五〇円)、一〇円硬貨一六枚(一六〇円)、五円硬貨一枚(五円)の合計三〇枚(一二一五円)であった。

6  そこで、菅沼晃一戸塚営業所長、前記小川助役らが右当日及び翌日原告らから事情聴取し、さらに同年一〇月三〇日に事情聴取並びに実地検分をした結果、本件事故の原因を目撃している者は原告ら各本人以外にはいないこと、原告ら自身が各事情聴取の際も、また実地検分の際も原告中沢は、運転席前面のガラスが曇ったので水を入れたバケツを運賃箱上におき雑布で拭こうとしたとき誤って肘をバケツにあてその水が運賃箱に流入した旨説明し、原告井戸は、運転席前面のガラスが曇ったのでステップから内側にホースで水をかけたときそのはね返りで運賃箱に水が入った旨説明し、その動作まで指示又は再現して示していること、したがって原告らの行為によってその担当金庫に水が入り、このため本件精算装置の停止事故と金庫内残貨を発生させたことは否定し得ない事実であること、金庫の状況、精算装置の停止状況及び担当車の運賃箱の状況は会社関係者が直接確認していることから、被告は請求原因3の(一)、(二)に記載の事実があるものと認定した。

7  しかして、原告らの前記行為は、いずれも会社就業規則八条一項、乗務員及び誘導員服務心得三条、二六条一号、ワンマンバス取扱要領4の(1)のハに違反する(なお、右心得二六条一号にいう「運賃箱」は、運賃箱と金庫とが一体をなしていた当時の用語で、当時運転士は、この金庫と一体をなしていた運賃箱を、乗務に際してはバスに持ち込んで設置し、乗務を終えたときは再びこれを取り外して持ち帰っていた。しかし、現在の「循環式自動両替運賃箱」が開発採用されてからは、運賃箱はバスに取り付けられたままで、「金庫」部分のみ取り外して乗降務に際して所携すればよくなり、また「両替器」もこの「循環式自動両替運賃箱」自体に組み込まれている。したがって「金庫」は同号の「運賃箱」なる用語に含まれているものである)ところ、本件は、会社の事業運営の基盤をなす運賃収納システムに関し、企業秩序及び職務規律の基本にかかわる重大な案件であるがただ、被告としては、本件が故意によるものでなく、過失の行為であることを斟酌し原告らに対する懲戒処分は、就業規則七三条、従業員懲戒規程二条、四条、九条六号、一〇号により、いずれも平均賃金日額の二分の一の減給処分(本件処分)にとどめた。

8  したがって、本件処分はいずれも正当なものであり、何ら不当労働行為及び懲戒権の濫用に該当するところはない。

四  被告の主張に対する認否

1  被告の主張1の事実は認める。

2  同2のうち被告の定期バスにつき、昭和三〇年代後半よりワンマン化が開始され、現在被告においてすべてワンマン化がなされていることは認める。

3  同3のうち運賃収納システムが被告の主張するように機械化されていることは認めるが、その余の事実は不知。

4  同4のうち運賃の機械的収納システムが実際上乗務員の手による収納システムに代っていること、乗務員は収納の終った金庫を精算装置から金庫格納棚の所定位置に置くことになっていること、その際金庫は解錠され蓋の開いた状態で取り出されそのまま棚に置かれることは認めるが、その余の事実は否認する。原告らが取扱要領の存在を知ったのは本訴において乙号証として提出されたときが初めてであり、被告が運賃の機械的収納システムにつき徹底を図っているなどの事実は存しない。

5  同5(一)の事実は認める。

6  同5の(二)ないし(四)の事実は不知。

7  同5の(五)のうち七三号車の運賃箱の点検状況は認めるが、一二〇号車の点検状況については不知。その余は争う。

8  同5(六)の事実は不知。

9  同6のうち菅沼所長、小川助役らが被告らから事情聴取し、実地検分をしたことがあることは認めるが、その余の事実は否認する。

10  同7のうち本件処分がなされたことは認めるが、その余は争う。

11  同8は争う。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるからここにこれを引用する。

理由

一  請求原因1ないし3の事実並びに被告の主張1の事実は当事者間に争いがない。

二  まず本件当時の被告戸塚営業所における運賃収納の仕組について検討する。

被告の主張3のうち運賃収納システムの機械化に関する事実は当事者間に争いがなく、(証拠略)を総合すると、次の事実が認められる。すなわち、

1  ワンマンバスの乗務員たる運転士は、乗務に就くに際し、営業所内の金庫格納棚にその蓋が開いたままの状態で置かれている担当車両の金庫を取り出し、これを担当車両の循環式自動両替運賃箱下部の金庫挿入口に差し込んでセットする。

2  乗務中、乗客が運賃箱上部の運賃投入口へ硬貨、回数券、整理券を投入すると、自動両替に必要な数だけの一〇円、五〇円硬貨を除き、全て金庫内に入るようになっている。

3  運転士は、乗務を終えると金庫を運賃箱から取り出して運賃の精算をすることとなるが、運賃箱から金庫を取り出す際、運賃箱内のシャッター機構が作用して自動的に金庫挿入箇所の上部にある蓋が閉じて運賃箱本体と金庫とを遮断すると共に金庫の蓋が閉じられ施錠されることとなる。

4  乗務員は、この施錠された金庫を営業所に持ち帰りこれを精算装置の解錠器部分の金庫挿入口に差し込み、当日の自己のダイヤカード及び個人カードをそれぞれカードリーダーに差し入れて抜いたうえ始動ボタンを押す。すると金庫は、その蓋が自動的に解錠されて開き、約六秒で六段階に断続的に一回転する。これにより金庫内の硬貨、回数券、整理券は精算装置の券銭分離機へ落ちて行く。そして金庫は、一回転すると停止し解錠器部分から取り出すことができるようになるが、金庫の蓋は開いた状態となっており、乗務員は、この蓋の開いた金庫を金庫格納棚の所定位置に置くのである。

5  ところで、券銭分離機に落下した硬貨、回数券、整理券のうち回数券、整理券などの紙券は風圧によりチケット裁断器へ運ばれて処理されることとなるが、硬貨はベルトで硬貨選別機へ送られ、一〇〇円、五〇円、一〇円、五円、一円の各硬貨の種類ごとに区分される。

6  このようにして硬貨の選別が終り、収納が完了すると、キャッシュターミナルから当該乗務員の当日の精算順位番号、日付、交替番号、氏名コード(入社時からのもの)のほか精算にかかる硬貨の金種、枚数及び合計金額が記入された個人別収入金額の精算レシートが打ち出されて精算が完了する。

以上の事実が認められる。右認定に反する証拠はない。

三  そこで本件処分の対象となった原告らの行為について検討する。

(証拠略)を総合すると、次の事実が認められる。すなわち、

1  被告戸塚営業所助役小川統治郎は、昭和五五年九月二五日午後九時頃、営業所事務室で当直勤務に就いていた際、会計担当の小菅芳治事務掛から、「精算装置の警報器のブザーが鳴ったので調査してみると精算装置内に水にびっしょり濡れた回数券等が詰まり精算装置が停止した」との報告を受けたので、直ちに精算機室へ行くと、精算装置の蓋は既に開けられており、硬貨選別機の硬貨を誘導する円盤状の機械部分に、本来であればチケット裁断器の方向へ運ばれていなければならない回数券がびっしょり濡れた状態で詰まっているのを認めた。小川助役は、小菅事務掛から、いま精算をしたのは原告中沢であるらしい旨を聞き、精算装置の状況から金庫や運賃箱も濡れているのではないかと考え、小菅と共に精算機室の脇にある金庫格納棚へ行き原告中沢担当の七三号金庫を点検した。すると同金庫は、内、外部とも水に濡れ内部には底部に濡れた硬貨と回数券、整理券とが混ざって相当な厚さで残存していた。

2  その後小川助役は、七三号金庫を事務室に持って行ったが、間もなく原告井戸が「また故障か」などと言いながら営業所に入ってきたので、同原告に右金庫を見せ「こんなに金庫の中に水が入るわけがない」などと話した。ところがその後間もない同日午後九時一〇分頃、再び小菅事務掛から、「精算装置の警報器のブザーが鳴ったので調べてみると前回と同様の状況であった」旨の報告を受けたので、直ちに精算装置を検分すると、小菅のいうとおり精算機内の状況は前回と同様であって、精算装置は稼動せず停止していた。小川助役は、小菅事務掛から直前に精算したのは原告井戸である旨を聞き、その担当の一二〇号金庫を点検すると、前記の七三号金庫と同様の状況であった。

3  小川助役は、右の原因を調査すべく、運行担当の事務掛石井義雄に原告ら担当の七三号車、一二〇号車を整備工場へ入れるように指示したうえ、既に帰宅していた原告中沢宅へ電話をかけ同人に対し「金庫が濡れ、残貨があるので事情説明のため営業所に来てもらいたい」旨を告げた。間もなく原告中沢が営業所に来たので、小川助役は、原告中沢に七三号金庫を示したうえ、同原告と共に七三号車、一二〇号車の置いてある整備工場前へ行き、同日午後九時四〇分頃から午後一〇時二〇分頃にかけて木村勝次整備士、石井事務掛、星房之介運転士立会のうえ、七三号車の運賃箱を点検すると共に原告中沢から事情聴取した。右点検時の七三号車の運賃箱の状況は、運賃投入口部分の内部、運賃箱内部のベルト機構、券シュート、両替機構、シャッター機構が水でびっしょりと濡れているほか、金庫を取り外した後の金庫挿入部分も濡れ、両替用受皿に水が約二センチメートルの深さで溜っていた。これについて原告中沢は、「客が満員近く乗車したため車両の前面ガラスが曇ったので、汲沢団地の終点で、その曇りをとるため底から約一五センチメートルないし二〇センチメートル水が入ったバケツを運賃箱の上に置きガラスを拭いていた際誤ってバケツに肘を当てて倒し、その水が運賃投入口から入った」と説明したので、小川助役が「そんなにうまく水が入るわけがないが」と詰問すると原告中沢は「それがうまく入ったんだ」と答えた。更に小川助役が右事故を報告しなかったことについて問い質すと、原告中沢は「俺は何でもないと思ったから報告しないんだ、報告すればよかった、報告しなかったことは謝るよ」と述べ、精算後の金庫の確認もしなかった旨申述した。

小川助役は、右点検と同時に、原告井戸の乗務した一二〇号車内も点検したが、その運賃箱は両替機受皿に水が溜っていなかったこと以外は前記七三号車とほぼ同様の状況であった。しかし、原告井戸は既に帰宅し同人宅は営業所から遠いので、小川助役は、当日は電話で同原告から事情を聞くにとどめたが、その際同原告は、「夕方、乗客が満員で、そのため前面ガラスが曇ったので、営業所の車庫でステップから内側にホースで水をかけた」と述べた。

4  小川助役は、翌二六日、原告らが属する班の班長運転士である正田隆穂立会の下で原告らから前日の状況について事情説明を求めた。

(一)  まず原告井戸につき同日午前一〇時三〇分頃から同午前一一時頃にかけて事情聴取を行った。原告井戸は、「当日の二五日は雨で、乗客が満員のため前面ガラスが曇ったので、午後六時三〇分頃、戸塚営業所に戻った際、洗車場で、バス出入口のステップから水道ホースで前面ガラス内側の左側に水をかけた。その際水しぶきが運転席左横の風防や運賃箱にかかったので、これを拭くため、運賃箱横に置いたバケツから雑巾を取り出し、しかもこれを絞らず水滴が垂れる状態で運賃箱の上を通過させ、風防や運賃箱を拭いた」と説明した。そこで、小川助役が「そんなことで水が入るわけがないではないか」と問い質すと、原告井戸は、「いや、入ったんだよ」と答え、「風防があるから運転席は濡れない」などと述べたりした。また同原告は小川助役に対し、同年一〇月一日までにこの件につき報告書を提出することを約束した。

(二)  引き続き同年九月二六日午前一一時二〇分頃から同午前一一時四〇分頃にかけて原告中沢に対し事情聴取を行った。原告中沢は、「同月二五日午後七時五〇分頃汲沢団地折返し場で、昇降口のドアを拭いていて振り返る際運賃箱の上に置いたバケツを右肘で倒した」と述べたほかは、二五日の整備工場内における運賃箱検分の際にした事情説明と同内容であったが、同原告が説明したバケツの水の量が二五ないし三〇センチメートルであったので、正田班長が疑問視すると、同原告はこれを訂正し、一五センチメートル位であったと言い変えた。

5  小川助役は、前記のとおり原告井戸に対しては同年一〇月一日までに報告書を提出せしめる旨約定させ、原告中沢に対しては、同年九月三〇日午前中、同年一〇月一日までに報告書を出すように指示し、その旨約定させたが、同年九月三〇日午後、原告らは権立会戸塚営業所支部長大川周一を伴い、小川助役に面会して報告書は提出しない旨申し出た。

6  被告は、同年一〇月三〇日、戸塚営業所において、菅沼戸塚営業所所長が石井正男整備長、栗原邦治、瀬尾勝及び小川統治郎の三助役及び正田隆穂班長運転士を立合わせて原告らから再度の事情聴取及び実地検分を行った。右事情聴取の際の原告らの説明は同年六月二六日の際の事情聴取のときと同様であったが、ただ原告中沢については、先の事情説明の際には汲沢団地での折返し場の後の乗務につき、小川助役からの「両替機の受皿に水がたまっていて乗客から変だとはいわれなかったか」との質問に対し「両替客はいなかったと思う」と答えていたのが、「両替客はいたように思うが故障だとは言われなかった」と供述内容を変更した。この事情聴取後実地検分が行われ、原告井戸は自ら当日の水が運賃箱に入った状況を再現して見せ、原告中沢については菅沼所長が原告中沢に代ってこれを再現したが、その実地検分に使用した車両の運賃箱の金庫を直後に点検したところでは金庫内には水はほとんど入っていなかった。

7  なお、本件運賃箱への水の流入の結果精算装置にかけた後も金庫内に残存した硬貨は、七三号金庫については一〇〇円硬貨八枚(八〇〇円)、五〇円硬貨一〇枚(五〇〇円)、一〇円硬貨三八枚(三八〇円)合計五六枚(一六八〇円)であり、一二〇号金庫については一〇〇円硬貨八枚(八〇〇円)、五〇円硬貨五枚(二五〇円)、一〇円硬貨一六枚(一六〇円)、五円硬貨一枚(五円)合計三〇枚(一二一五円)であった。

8  被告は、以上に述べた精算装置の故障の状況、原告らの各担当金庫の状況、各担当車両の状況並びに原告らからの事情聴取及び実地検分の結果を検討した結果、原告井戸については請求原因3の(一)記載事実、同中沢については同(二)記載の事実が認められるとして、原告らを平均賃金日額の二分の一を減給する本件処分に付し、同年一二月支給分より差し引いた(本件処分の認定事実、処分の内容、減給分控除の点は当事者間に争いがない)。

以上の事実が認められる。右認定に反する証人大川周一、原告井戸道男、同中沢仲治の各供述部分は前掲証拠と対比してたやすく措信できず、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

然るところ原告らは、金庫に水が流入したことはない旨或いは仮に流入したとしても被告主張のように多量ではない旨主張し、原告ら本人の供述中にはこの主張に沿う部分もあるが、右認定にかかる精算装置の故障の状況、精算装置にかけた直後の原告らの各担当金庫内の状況及びその各担当車両の運賃箱内部の状況からみれば、金庫が運賃箱に挿入された状態において運賃投入口からかなりの量の水が流入したことは明らかというべきであり、このような状況が発生したのは、本件事故当日原告らにおいて金庫を運賃箱に挿入した後、その乗務を終えて金庫を運賃箱から引き出すまでの間であることもまた前記認定事実よりして明白であるから、その間原告ら以外の者が運賃投入口から水を流入させたことを認め得べき状況のない本件においては(もっとも本件当日は雨が降っていたので理屈の上では乗客の所持する傘のしずくが入る可能性がないとは言えないかも知れないが例えその事実があったとしてもそれによって運賃箱及び金庫が本件のような状況になるとは到底考え難いところである。)、原告らの行為によって運賃投入口から水が流入したことは容易に推認し得べきところである。確かに被告が処分事由として認定した原告らの行為によっては、必ずしも事故発見後現認した金庫内の状況を作出せしめるに十分であると言えないことは、前示認定の原告らの説明どおり再現した結果に徴し否定し得ないところであり、かえって(証拠略)によって認められるバス内の運賃箱の位置、水が流入した運賃投入口の大きさ等の状況をも合わせ勘案すれば、むしろ本件事故は原告らの故意ないしは故意に近い重大な過失行為により生じた可能性が強いものと推測されるのであるが、被告としては、少なくとも本件事故が原告らの行為に基因することは否定し得ない事実であることに鑑み、敢えて原告らの故意による行為とは認定せず、事故発覚直後の原告らの陳述を基礎にして過失行為に認定事実を構成したものであることは弁論の全趣旨に照らし明らかであるから、右の如き事実認定のずれは、行為と結果との因果関係が全面的に否定されない限りは、被処分者に有利な事実認定として肯首することができる。したがって原告らの前記供述部分は採用することができない。

更に、原告井戸は事故当日自ら金庫を精算したことはない旨を主張し、原告井戸及び証人吉沢孝治の供述中にはこれに沿う部分もあるが、(証拠略)によれば、本件当日、原告井戸の金庫は、訴外山田朝生運転士の金庫の次に精算され、原告井戸の金庫の次には訴外中野安春運転士の金庫が精算されているところ、前掲証人小川統治郎、同中野安春及び同山田朝生の各証言によると、当日原告井戸の金庫を同原告に代って精算したものはいないこと、山田朝生は、自己の金庫を精算後戸塚営業所玄関脇のカウンターのところにいたところ、原告井戸が金庫格納棚の方から出てくるのを目撃していること、中野安春は、当日は予備勤務であったが、金庫を持って営業所に入り精算装置の方へ行く途中金庫格納棚の方から原告井戸が来るのを見たが、精算装置のところへ行くと同装置は故障で停止しており、事務室内が騒がしいので金庫を精算室前の台の上に置いたうえ事務室へ行くと机の上に濡れた金庫が置いてあるのを認めたこと、その後精算に戻ったが、未だ故障中であったのでしばらく待ち故障がなおってから金庫を精算し、これを格納棚へ納めて事務室に入ろうとした際、玄関のカウンター前辺りを帰ろうとしている原告井戸の後姿を認めたことが認められるから、原告井戸が自ら金庫を精算装置にかけたことは間違いないというべきである。(人証略)及び原告井戸の右認定に反する各供述部分は措信できない。

四  原告らは、被告主張の如き報告義務が原告らに存しない旨を主張するので、この点について検討する。

前記認定事実によれば原告らは、かなりの水が運賃投入口から入ったことはこれを当然に認識していたものということができるところ、(証拠略)によれば、運転士は金庫を精算装置にかけた際同装置内で回数券、整理券などの紙券が硬貨と分離される状況を確認することができる状況にあることが認められるから、原告らとしては、紙券及び硬貨の入った金庫に水が流入したときこれをそのまま精算装置にかけると紙券が硬貨と選別されず混ざったまま硬貨選別機の硬貨を誘導する円盤上の機械部分に送られ、その結果紙詰まり等の障害を発生せしめることは容易に予測し得るところであるといわなければならない。

然るところ、(証拠略)並びに弁論の全趣旨によると、被告の「乗務員及び誘導員服務心得」二六条(1)には、運転士は、運賃箱、つり銭器、両替器及び整理券器(ワンマンバス運転士に限る。)がいつでも正常に働くよう整備しておかなければならない旨定められており、右にいう運賃箱とは運賃箱と金庫とが一体をなしていた当時の用語で、本件当時採用されていた循環式自動両替運賃箱との関係では金庫をも含むものであることが認められ、(証拠略)によれば、被告作成の「ワンマンバス取扱い要領」4(1)ハには、乗務員は「乗務終了後、金庫を運賃箱からはずし、事務所の金庫解錠器にセットし(金銭、紙券を出す)所定の格納棚に納め点呼を受ける。この場合、運賃箱に異状があったときは、その内容を担当係員に報告する。」と定められていることが認められる。

そして(人証略)の各証言によると、被告は従業員に対しその入社時に前記ワンマンバス取扱要領を配付していることが認められるから、原告らは右報告義務の存在を認識していたものというべきである。

したがって、原告らは各自の金庫を精算装置にかける前に運行管理者に対し、運賃箱への水の流入状況を報告し、その適宜の措置を持つべきであったということができる(仮に金庫に対する水の流入が原告らの故意に基づくものである場合には、報告義務違反を論ずるまでもなく重大な職務上の義務違反行為として懲戒処分の対象となることは論をまたないところである)。

原告らには報告義務違反がない旨の主張は採用の限りでない。

五  しかして、前記認定の事実並びに(証拠略)によると、原告らの本件行為は、被告の従業員就業規則八条一項(「従業員は、その職務に関して会社の諸規則を誠実に守り、所属長((課長以上の者及び所長をいう。以下同じ。))の指示に従い互いに協力し、その職責を遂行すると共に職場秩序の保持に努めなければならない。」)、乗務員及び誘導員服務心得三条(「乗務員等は、事業の公共性を認識し、職責の重要性を自覚して、誠実に職務を遂行しなければならない。」)、二六条(1)、ワンマンバス取扱い要領4(1)ハ(いずれも前示のとおり)に違反するものと認められるところ、右証拠によれば、被告は従業員就業規則七三条(「従業員の賞罰に関しては、別に定める従業員表彰規程及び従業員懲戒規程により行う。」)、従業員懲戒規程二条(「懲戒は、譴責、減給、出勤停止、昇給停止、降職及び懲戒解雇の六種とし、二種以上合わせて行うことができる。」)、四条(「減給は、一回について平均賃金日額相当額の二分の一以内とし、且つ一賃金計算期間内における減給総額は、その期間の賃金総額の一〇分の一以内とする。」)、九条六号(「次の各号の一つに該当するときは、譴責、減給、出勤停止、昇給停止もしくは降職に処する。ただし、情状により所属長の訓戒のみに止めることができる。(6)会社の諸規則、令達に違反したとき」)、一〇号(「(10)その他前各号に準ずると認められたとき」)を適用し、原告らを本件処分に付したことが認められる。

六  そこで本件処分が不当労働行為であるとの原告らの主張について検討する。

(証拠略)並びに原告井戸、同中沢の各本人尋問の結果によると、被告の従業員では神奈川中央交通労働組合が組織されているところ、昭和四二年一二月、組合執行部の活動方針に批判的な組合員有志により「神奈川中央交通事故をなくす会」が結成され、同会は同五四年四月「神奈中職場に権利を確立する会(略称して「権立会」)」と改称されたこと、原告らは右権立会の会員であり、組合役員選挙に権立会から立候補したことがあること、原告井戸は、同五四年一二月、被告に年次有給休暇の申請をしたところ、これを拒否され欠勤扱いとされたが、同五五年一月、組合がこの問題を取り上げないので所轄労働基準監督署に申告しその結果同年三月、被告に是正勧告がなされて、被告が原告井戸に対し欠勤扱いとした分の賃金を支払ったことがあったこと、この問題につき原告中沢も原告井戸に同調して行動したことが認められる。

しかしながら、右のような事実が認められるからといってそのことから直ちに被告のした本件処分が、原告らの組合活動を嫌悪してなした不利益処分ということはできないところであって、他に本件処分を被告の不当労働行為意思に基づく懲戒処分であることを認めるに足りる証拠はない。

したがって、本件処分が不当労働行為として無効である旨の原告らの主張は理由がない。

七  更に、原告らは本件処分が懲戒権の濫用である旨を主張する。

しかしながら、本件がバスの運賃箱(金庫を含む)の管理、取扱いにかかる義務違反行為であること及び行為の態様並びに結果に徴し勘案すれば、被告が所定の懲戒処分のうち比較的軽い減給処分を選択ししかも平均給料日額の二分の一を減給することとした処置は決して重きに失せず詢に相当であって、本件処分を懲戒権の濫用とすべきいわれは毫も存しない。

原告らの懲戒権濫用の主張も失当として排斥を免れない。

八  以上のとおり被告のした本件処分は相当であって無効とすべきものではないから、これが無効であることを前提とする原告らの本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。

よって原告らの請求はこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 安國種彦 裁判官 山野井勇作 裁判官 吉田徹)

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